東北大学

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2022年にオープンバッジを導入し、学生や社会人の学修成果の証明として活用を進めている東北大学。9月7日、滝澤博胤理事・副学長(教育・学生支援担当)に「東北大学におけるオープンバッジ導入と今後の展望」と題してご講演いただきました。その内容をご紹介します。

「社会とともにある大学」として教育、研究、社会との連携をめざし、オープンバッジを導入

東北大学は1907年の創設以来、「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」という3つの理念を基盤に、教育と研究、社会との連携の好循環をめざしてきました。その理念は守りながら、2020年には「東北大学コネクテッドユニバーシティ戦略」を策定し、教育、研究、社会との共創、大学経営の全方位で、DX(デジタルトランスフォーメーション)を加速的に推進することを掲げました。
具体的には、オンラインを戦略的に活用した多様な教育プログラムの展開、国・文化等の壁を超えた多様な学生の受け入れの推進、オンラインを活用した東北大学コミュニティ形成の加速などを打ち出し、学内一体となって取り組んでいるところです。さらに、東北大学は「社会とともにある大学」として、社会人の学び直しの機会を提供する新たなリカレント教育も、重要施策に挙げてきました。

初年次相当から大学院レベル、社会人講座までを対象に

東北大学では、学生や社会人に向けた教育内容を充実させるだけでなく、「学生が学位とは別に身につけた知識やスキルを学修履歴として明示できるようにしたい」「一人一人の学修成果を可視化して、その先の学習プランやキャリア設計に活用できるようにしたい」というねらいのもとで教育システム全体を構築しようと、「オープンバッジ構想」を議論してきました。 現在、大学から広く社会に向けて発信している教育プログラムは、一般教養レベルから学部専門レベル、大学院レベルのものまであります。こうした様々な教育プログラムの修了者にオープンバッジを発行していくため、2022年3月にオープンバッジ・ネットワークに入会し、バッジの発行を始めました。

東北大学オープンバッジの概要についてご紹介します。 プログラム内容に応じて色を分けた3種類のバッジを設定しています。将来的に、本格的にマイクロクレデンシャル(高度な専門教育に関し、遠隔・オンライン教育の積極的な活用や、個別の単位に分けた学修)を導入するとき、これが広く互換性をもって社会全体に受け入れられ、国内外の高等教育機関でも相互にそのスキル水準、知識レベルを共有できるようになった場合を想定すると、バッジにも様々なステージを設定した方がいいと考えたためです。



パターン1は、大学の初年次教育に相当する原則20~60時間ほどの教育プログラムを想定し、バッジの色はグレー。
パターン2は、学部教育に相当する、原則60時間以上の教育プログラムを想定した、薄青色のバッジ。多くの履修証明プログラムがパターン2に相当します。
そしてパターン3は、大学院教育に相当する高度な教育プログラムを対象とします。東北大学のスクールカラー、紫色のバッジです。
バッジのデザインは2種類あります。一つ目は、東北帝国大学初の図書館2階の半円型アーチの窓をモチーフにした、学びの象徴である図書館と東北大学の歴史的建造物を取り入れ、学問と伝統がイメージできるデザイン。二つ目は、東北大学本部棟に用いられているスクラッチタイルをモチーフとして、伝統と格式を感じられるデザインになっています。

オープンバッジが学習のモチベーションに



バッジは大学として発行するため、質保証の観点から、主に東北大学総長名あるいは理事・副学長名で修了証等を発行しているプログラムを対象にしています。 現在バッジを発行している対象のプログラムには「履修証明プログラム」、「博士リテラシー育成塾」、「数理・情報・データサイエンス AIリテラシー」、市民向けオープンオンライン講座である「東北大学MOOC」、「大学教員準備プログラム」、学生が現代的なリベラルアーツの素養を習得する「挑創カレッジ」などがあります。

社会人向け履修証明プログラムには例えば、本学の高度教養教育・学生支援機構が提供する「産学連携教育イノベーター育成プログラム」や「大学経営基礎講座」、文学研究科の「臨床宗教教養講座」「臨床宗教実践講座」といった、臨床宗教師の育成に関わるプログラムなどがあります。
このほか、医学系研究科や災害科学国際研究所を中心とした「災害マネジメント人材養成プログラム」、経済学研究科の「地域イノベーションプロデューサー塾」「地域イノベーションアドバイザー塾」もあります。 履修証明プログラムでは従来、プログラムの名称や概要が記された履修証明書が発行されてきましたが、デジタル証明であるオープンバッジでは、プログラムの内容やバッジの取得条件、プログラムで身につく知識やスキルが明示されます。こうした記録をバッジとしてウォレットに貯めていく形となり、修了者から好評です。

このほか、専門的、先端的な内容を一般の学習者に分かりやすく伝える「東北大学MOOC」という大規模オープンオンライン講座でも発行しています。おもに高校生以上を対象とした、なじみやすくわかりやすいサイエンスシリーズと、社会人を対象とし、実学的な内容や社会問題などを扱う高度教養シリーズを展開しています。
受講者の満足度も高く、講座の累計登録者は10万人を超えました。昨年10月からは「MOOC」の受講者にもオープンバッジの発行を始め、すでに10講座で2700人にバッジを付与しました。
SNSでは「オープンバッジ発行のメールが来た。今までレポートを書いたことがなく、大苦戦したけど、頑張って良かった」「オープンバッジ発行のお知らせのメールに、バッジの活用例も書いてあり、わかりやすかった」などの感想が投稿されています。受講者の皆様は、バッジを受け取ることで、学ぶ喜びや、次の学習に向かうモチベーションを感じているようです。

このように、東北大学はこれまで計25の様々な教育プログラムで累計8000を超えるバッジを発行しており、今年度中には1万を超える見込みです。一番多いのは、学部初年次に相当する「数理・情報・データサイエンス AIリテラシー」や「MOOC」を含む約7600のバッジです。
ほかに、学部専門教育相当にあたる「挑創カレッジ」と「履修証明プログラム」で計約460、大学院相当の「ドメインデータサイエンティスト養成プログラム」などで計約130のバッジが発行されています。
今年度からは順次、全学レベルだけでなく、研究科単位でも独自の教育プログラムに対してバッジを発行し始めました。

バッジをグローバル展開、高大連携でも活用へ

オープンパッジの大きな役割の一つは、ウォレットによる学修成果の管理です。 今後は、学習者が貯めたウォレット内の各プログラム修了のバッジを組み合わせて、一つの大きなコースワークの単位を認定できる仕組みの導入を考えていきます。例えば、「グローバルリーダー育成」「プルリリンガル・スタディーズ」など5つのプログラムがある「挑創カレッジ」全体の学修成果を現代的なリベラルアーツの習得という、より高次のバッジへとつなげる。あるいは、「MOOC」のサイエンスシリーズ、高度教養シリーズの複数のバッジを組み合わせることによって、「サイエンスと高度教養」という形の高次のバッジを発行する、といったことも想定しています。

また、学習者は必ずしも、ある機関が発行するバッジだけを集めるわけではありません。社会人が様々な大学での学修履歴を体系化し、最終的にそれを認定するときに必要なのが、バッジ間の互換性、標準化だと考えています。
本学では学部初年次相当、学部専門相当と大学院相当でバッジの色分けをしていますが、ネットワーク全体としての標準化を検討していく必要があります。
さらに、グローバル展開も視野に入れ、海外に向けたオープンオンライン講座のバッジ発行の仕組みや、海外の大学と相互にバッジを活用できる制度も構築していくつもりです。


高大接続への活用もしていきたいです。 AO入試で12月に合格が決まる高校生には、入学前教育という形でオンライン教育を提供していますが、そうした高校生の早期履修にもバッジを発行する準備を進めています。今年から始まった、福島県教育委員会と本学の高度教養教育・学生支援機構で連携して進めているWWL(ワールド・ワイド・ラーニング)事業では、「学問論演習」の講座に参加した高校生にバッジを発行することも検討しています。

東北大学は「社会とともにある大学」として、社会との連携に力を入れてきました。オープンバッジの展開も、東北大学の人的・知的資源を広く社会に還元する活動の柱であると考えています。オープンバッジ・ネットワークの皆様とともに、オープンバッジの新しい展開を考えていきたいと思っています。

質疑応答より―スピード感をもちつつ、質の保証も重視

Q)オープンバッジの受領率を上げるために工夫した点はありますか。
A)まず、オープンバッジがどういうものか知っていただくため、プレスリリースや「MOOC」の案内で広報しました。実際にバッジの発行が始まると、受け取った方のSNS投稿や口コミによって認知度が高まりました。学生にも評判が良く、オープンバッジの対象プログラムの履修者が増えています。

Q)オープンバッジとしての適格性をどのように判断し、質を保証していますか。学内で行われている各種リカレント教育へのバッジの活用についても、今後の展望をうかがいたいです。
A)現時点では、カリキュラム体系、学習の実施体制がしっかりしたプログラムを対象にオープンバッジを発行しています。バッジの質を保証するため、たとえば、多くの学外の方が受講している「MOOC」も、最後の課題を仕上げて修了した受講者のみにバッジを発行しています。
今後も「社会とともにある大学」として、オープンバッジを様々なリカレント教育やグローバル展開に活用したいと思っています。その際には、現在定めている学習時間数やスキル水準などを踏まえ、適宜、学内の会議で、活用の方向性を決めるつもりです。

Q)オープンバッジの導入を学内で決定してから、実際の導入までどれほどの期間を要しましたか。
A)学内のビジョンにオープンバッジ構想を掲げたのは2018年ですが、本格的に導入に向けた議論が始まってから、オープンバッジ・ネットワークに加入するまでは数ヶ月でした。最終的にデザインを決めて、バッジを発行するまでには半年ちょっとでしょうか。スピード感をもってやりました。

Q)オープンバッジを導入するまでに苦労したことはありますか。
A)大事なのは学内の理解、質の保証ですね。やみくもに出すわけではなく、東北大学として出すバッジですので、学内の会議での議論と説明は丁寧にしました。

Q)オープンバッジと学内のシステムで、情報を連携する仕組みを構築していますか。
A)ウォレットは個人の学修履歴のデータです。本学以外が発行したバッジが入ることも当然想定されるため、そのような仕組みは構築していません。今後、社会人教育が本格化したときに、オープンバッジを社会全体としてどう活用していくか。オープンバッジ・ネットワークのイニシアチブのもと、議論が進むことを願っています。

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