住友ゴム工業株式会社

一般財団法人オープンバッジ・ネットワークは2025年11月1日に設立6周年を迎え、12月10日に記念シンポジウムを開催しました。シンポジウムの中では、第3回オープンバッジ大賞を受賞された住友ゴム工業株式会社 デジタル企画部の金子 秀一 様より、同社でのオープンバッジ活用の成果や、今後の展望についてご講演いただきました。その内容をご紹介します。
住友ゴム工業の中期経営計画に基づいたDX戦略
住友ゴム工業は兵庫県神戸市に本社を置く企業で、主にタイヤ、スポーツ、人工芝などの製造・販売事業を展開しています。
タイヤ事業が売上の大半を占め、ダンロップやファルケンといったブランドを展開しています。また、ゴルフブランドのゼクシオやスリクソンを手掛けるスポーツ事業、人工芝や住宅用免震ダンパーなどを製造する産業品事業も展開しています。
弊社はここ数年DX経営に注力していますが、その背景には2022年に策定した中期経営計画があります。この計画の中で、企業が成長を続け、世の中の変化に迅速に適応するための重要な要素としてDX人材育成を掲げました。特に、新興国メーカーの台頭など製造業を取り巻く競争環境が厳しさを増す中で、データに基づく意思決定を行い、変わり続ける事業環境に迅速に適応し続けることが不可欠であると考えたためです。
人、データ、ネットワークがDX推進の柱

弊社は、目指すべきトランスフォーメーションの姿をDXビジョンとしてまとめています。このビジョンの中心にあるのは、AIなども活用しながら正確で信頼できる社内外のデータを迅速に集約、分析し、意思決定に活用することです。
このビジョンを達成するために、私たちはDX推進の柱として人、データ、ネットワークを重視しています。
まず、変革の原動力は常に人であって、社員が適切なスキルと知識を持ち、変革を推進するマインドを持つことが重要です。
そして変革を進めていく意思決定のための羅針盤がデータです。企業内で分散しがちなデータを、必要な時に必要な形で活用できる状態にすることが求められています。
そして人と人、データと人がつながるネットワークがあることで、新たな価値を生み出していきます。
経営層から一般社員までが同じDX研修を受講

人の側面については、全社的な教育体制の構築に着手しました。
具体的にご紹介すると、弊社のDX人材育成は、全社員を対象とした基礎教育と、専門スキルを持つ人材の育成という二つの階層によって構成されています。
まず経営層から一般社員まで、スタッフ系人材全員が同じ研修を受ける仕組みを導入し、全体のレベルを引き上げました。このDXリテラシー教育で大事にしているのは、デジタル技術を知る事だけではなく、それを使って業務やビジネスモデルをどう変えるかという変革の本質を理解することです。DXを専門部署だけの仕事と捉えるのではなく、現代においてはAIやデータを活用して意思決定することが当たり前のスキルだということを知ってもらうことをこの研修を通して進めています。

そして専門スキルについては、一人が全てのスキルを習得するのは現実的ではないという判断から、役割を「ビジネスコア」「プロ」「データエンジニア」に分担して育成しています。
ビジネスコアは、ビジネス現場の知識をもつ人材が、DXの知識を持ちデジタルツールを使って事業課題の解決と部門への伝播ができる人材です。プロは、高度な統計や機械学習を用いたデータ分析を行います。そしてデータエンジニアは、データの収集基盤の整備やデータマネジメントを担います。
これら特徴の異なる専門人材が互いに連携し、組織として変革を推進する体制を目指しています。
実践を重視した学びの工夫

DX人材育成の研修内容は、座学にとどまらない実践的な学習を行うプログラムにしていくことを意識しています。
例えばデータの可視化分析について学ぶ研修では、不動産取引に関するオープンデータを分析して物件の選定、プレゼンテーションを行うことで、データから得た知見を他者に伝え、物事を動かしていく力を養います。
Project Based Learning(実践研修)では、自部署の実際の業務データを用いてAIやデータサイエンスを活用した課題解決に取り組みます。例えば工場での生産指示の最適化や、在庫量の予測ができるAIモデルの開発などを行っています。
ほかにも社内データを使ったAIコンペティションを開催しており、AIの予測精度を競い合い、優れたモデルを実務に生かすきっかけを作っています。
オープンバッジによるスキルの見える化


このようにDX人材育成を進めていたなかで、2024年にはスキルの客観的な証明としてオープンバッジを導入しました。
導入前は、研修が終わっても誰がどのようなスキルを持っているかが社内で見えにくく、スキルが十分に活用されないという課題がありましたが、オープンバッジの導入により、デジタルな証としてスキルが可視化されるようになりました。


社員からは、「頑張った証が形として残ることは、大きなモチベーションになる」「研修にかけた具体的な時間や労力は他の人から見えにくいが、オープンバッジがあれば周囲にも自分が身につけたスキルを伝えやすい」という声が多く聞かれています。これまでにDXリテラシー研修の修了者やプロジェクト型学習の完了者、社内コンペの成果者など、のべ数千枚、数十種類のバッジが付与されています。

今後の課題は、部門単位や事業部単位で、どこにどんなスキルを持った社員がいるかを可視化して人員配置にも生かしていくこと、そして取得したバッジやスキルを評価などに反映していくということです。
今後も客観的な指標であるオープンバッジを軸に、スキルを持つ人材を適切に評価し、能力を実務で最大限に発揮できるキャリア形成をサポートしていきたいと思っています。
自律的な学習文化の醸成とグローバル展開へ

私たちは人材育成を持続可能なものにするため、教え合い、学び合うコミュニティや文化の醸成にも取り組んでいます。
具体的には、
・研修の内製化を進め、社内の人材が講師を務めることで自らの知識も深まる循環づくり
・社内で事例共有や社外ゲスト登壇による世の中を知ることが出来るイベントの開催
・海外の生産拠点でもDX人材育成とオープンバッジの展開を進め、グループ全体でのDX推進に繋げていく
といった取り組みが進んでいます。
DXの取り組みやオープンバッジの活用は、企業の文化を作っていくことに繋げていけると考えています。研修やオープンバッジを通じて個人の行動が変わり、それを習慣化していくことで、革新・変革ができる人材が増えていくはずです。それによって企業の価値観や風土が変わり、成長につながっていくことを願っています。
講演後インタビュー ~キャリアパスの形成や人材配置への活用へ~
ご講演後、金子様、デジタル共創推進室の大西 智徳 様のお二人に、さらにお話をうかがいました。(以下、敬称略)
――オープンバッジを導入するにあたって、社内ではどのような課題がありましたか。
金子:オープンバッジについて社内で知ってもらい、理解を得ることが大きな課題でした。
デジタルバッジという仕組み自体、社内になじみがなかったため、それが何であり何のために使うのかを丁寧に説明する必要がありました。また、導入にかかる費用に対してどのような効果があるのかを明確にすることも重要でした。
――社内への説明の際には、どんなことを意識していましたか。
金子:オープンバッジを全く新しい制度としてではなく、これまでの取り組みを可視化する仕組みとして位置づけ、説明しました。
オープンバッジは、すでに社内で行っていたDX人材の育成や社内コンペなどの成果を「見える化」するものです。そしてバッジの付与自体をゴールにするのではなく、社員の自律的な学びや挑戦を後押しするための手段として設計することを意識しました。
――導入にあたり、オープンバッジ・ネットワーク事務局からはどのようなサポートがありましたか。
大西:オープンバッジ導入に向けて動き始めたのは、2024年3月ごろでした。それから本格運用までは3ヶ月ほどかかりましたが、その間、契約などの手続きにおいて迅速かつ柔軟なサポートを受けました。提出期限などの調整にも、快く応じていただきました。
不明点について気軽に相談できる環境があったこともよかったです。
――導入にあたって参考にした他社の事例はありますか。
大西:第1回オープンバッジ大賞を受賞していた旭化成株式会社様の事例を参考にしました。社内でスキルを可視化したり、DXスキルを身につけた人材が組織内でさらにDX人材を育てたりしているという活用事例を見て、オープンバッジを活用するイメージがわきました。また、サイバー大学様の事例も役に立ちました。バッジのメタデータ(学習成果、学習時間、評価方法など)の記載が丁寧だったので、当社のバッジ設計に取り入れました。
――DX人材を育成する研修では、具体的にどのような内容を扱っていますか。
金子:一例として、データサイエンティスト育成研修があります。Pythonの学習、機械学習、ディープラーニングの理論から実装までを学ぶプログラムで、勉強には時間がかかりますが、業務時間内に研修を終え、しっかりとスキルアップできるよう設計されています。
――今後の展望について教えてください。
大西:今後はより実務に直結したプロジェクト型学習の成果や外部の資格、全社使用ツール(Tableauなど)に関するスキルにもバッジの発行対象を広げる予定です。
最終的には、バッジを単なる受講修了の証明に留めず、業務でどう生かせるのか、どのような実践を行ったのかということが伝わるようなバッジ設計を目指しています。
そのうえでキャリアパスの形成や人材配置への活用、さらには学習文化の醸成へとつなげていければと思っています。
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